オーストラリアでベビーブーマー世代(1946年〜64年生まれ)による暗号資産投資が急拡大している。Independent Reserve Cryptocurrency Indexの最新調査によれば、ベビーブーマー世代は全投資家層で最も高い成長率を記録した。
55歳から64歳の層の保有率は過去5年間で2倍の16%に達し、65歳以上も2%から8.2%へと4倍に急増している。退職を機に資産配分を見直す動きが背景にあるが、デジタルリテラシーの低さから詐欺の標的になりやすく、専門家は慎重な投資判断を求めている。
退職世代が牽引する暗号資産市場の構造変化
オーストラリアの暗号資産市場において、ベビーブーマー世代が最も急速に成長する投資家層となった。
Digital Wealth Group創設者のシデル・シエラ氏は「投資家数では最大グループではないが、成長率では最速である」と指摘する。この急増の背景には、退職を迎えた世代が保有資産の運用方法を見直す動きがある。
シエラ氏は「多くの人々が退職を迎えたばかりで、それが投資先を再評価する契機となっている。5年前は彼らの多くがまだ就労していた」と説明する。
退職金や年金資産の配分を再考する中で、暗号資産という新たな投資先に注目が集まった。ビットコインは過去12カ月で価値が倍増しており、資産を効率的に運用したいという退職世代のニーズと合致している。
オーストラリア成人の31%が暗号資産を保有する中、最大の投資家層は依然として25歳から34歳の若年層で、全体の52.9%を占める。ただし、ベビーブーマー世代の急速な参入により、市場の人口構成は大きく変化しつつある。
シエラ氏は高齢投資家に対し、「入念な下調べを行い、圧倒されそうな場合でも諦めず、信頼できる情報源から支援を求めるべきだ」と助言する。暗号資産を紹介してくれた成人した子供などの親族や、専門コンサルタントに相談することが重要だという。
シエラ氏は初心者に対し、取引を始める際はまずビットコインのような評判の高い主要通貨に少額を投資し、自信がつくまで安全策を取ることを推奨している。「取引を始める際は『安全策を取る』ことができ、評判の高いビットコインのようなコインに少額を投資することが可能だ。過去12カ月で価値は倍増している」と述べた。一方で、高齢者であろうとなかろうと、初心者がリスクの高いミームコインに手を出すことは絶対に勧めないと強調している。
SNSが詐欺の入口に、オーストラリアは厳格規制へ
クイーンズランド大学の調査では、オーストラリア人が2023年に暗号資産詐欺で失った金額は1億7,000万豪ドル(約180億円)を超えた。調査対象者の3分の1以上がオンライン上のコンテンツに影響を受けており、60%以上が暗号資産に初めて触れたきっかけがソーシャルメディアだったと回答している。
シエラ氏は「FacebookやInstagramで暗号資産について読むこと自体に問題はないが、1つのツイートやTikTok動画を見ただけで、よく分からないランダムなコインに全財産を賭けるような判断をすべきではない」と警告する。シエラ氏が最も重視する助言は、暗号資産の秘密鍵とウォレットの管理権限を常に自ら保持することだ。「あなたの資金を管理すると申し出る人物がいれば、それは重大な危険信号である」と強調する。
こうしたSNSを介した詐欺被害の深刻化を受け、オーストラリア政府は2024年11月に16歳未満のSNS利用を禁止する世界初の法律を成立させ、2025年12月10日に施行した。対象となったのはTikTok、Instagram、Facebook、X、YouTube、Snapchatなど10のプラットフォーム。運営企業は16歳未満のユーザーがアカウントを作成または保持できないよう合理的な措置を講じる義務を負い、違反した場合は最大4,950万豪ドル(約53億円)の罰金が科される。
豪州のアナリストは、「オーストラリアのunder-16 banでMetaが544kアカウントをブロック(Instagram 330k, Facebook 173k, Threads 40k)。UKも同様の動きか?」と当時、Xに投稿していた。
アルバニージー首相は同法の施行を「オーストラリアの家庭があの巨大IT企業から主導権を取り戻す日」と形容した。ネットいじめや未成年を狙う犯罪者、中毒性のある仕組みから子どもを守ることが狙いだが、一部からは「支援ネットワークから締め出される可能性がある」との批判も上がっている。
ベビーブーマー世代を狙う暗号資産詐欺の実態
オーストラリアでは、ベビーブーマー世代が暗号資産詐欺の主要な標的となっている。AUSTRACの調査によれば、50歳以上の利用者が暗号資産ATMでの全取引の72%を占め、60歳から70歳の層だけで29%に達している。
AUSTRAC最高経営責任者のブレンダン・トーマス氏は「この年齢層が現金で暗号資産を購入する顧客として過剰に代表されており、証拠が示すように、60歳から70歳の利用者の多くが詐欺の被害者であることは極めて憂慮すべき事態だ」と述べた。
2025年6月に公表されたAUSTRACの全国調査では、深刻な被害事例が明らかになった。77歳の女性は、出会い系アプリで知り合った「ベルギー人男性」とのオンライン交際を2年間続けた末、43万3,000豪ドル(約2億8,200万円)を詐取された。女性は相手から偽の投資文書を見せられ、1週間で1万3,000豪ドル稼いだと示された。詐欺師は女性に電話で暗号資産ATMの使い方を指導し、通常のATMから現金を引き出させた後、ビットコインATMに入金させる手口を用いた。女性は18カ月かけて全生命貯蓄を送金し、一度に2万豪ドル(約220万円)相当の現金を持ち歩くこともあったという。
オーストラリア連邦警察のレポートサイバーシステムによれば、2024年1月から2025年1月の間に暗号資産ATMに関連する詐欺の報告は150件に達し、損失額は310万豪ドル(約3.3億円)を超えた。平均被害額は2万豪ドルを上回っている。
この事態を受け、AUSTRACは2025年6月に暗号資産ATMの運営に関する新規則を導入した。現金の入金と出金を5,000豪ドルに制限し、運営者に対して強化された顧客デューデリジェンス義務、必須の詐欺警告、より厳格な取引監視を要求している
オーストラリアは2019年のわずか23台から2025年には2,000台以上へと暗号資産ATMが急増し、アジア太平洋地域で最多、世界でも3番目の設置数を誇る。年間約15万件の取引が発生し、2億7,500万ドルが移動しているが、AUSTRACの調査では取引の85%が詐欺やマネーミュールに関連していることが判明した。オーストラリア政府は暗号資産ATMの禁止も視野に入れた立法措置を検討している。

